作文「新聞の使命に就て」

一、作文「新聞の使命に就て」二、左の語を解説せよ Lumpen 室内楽 A la mode Platon[#ここで字下げ終わり] そんな問題だった。横文字を読むために問題用紙を横に動かす音が、サラサラと鳴った。豹一の傍の席でしきりに鉛筆を削っていた男が、暫く問題を見つめていたが、いきなり立上って、「こら帰った方が得や。一人しか採れへんのに出来もせん試験を受けても仕様があらへん」豹一にきこえるように言って、こそこそと出て行った。すると、これを見ならうように、つづいて三人出て行った。 豹一は居残って答案を書くことに、ちょっと拘泥った。なんだか出て行った人に済まないとも思われた。が、いま出て行っては、あいつは答案が書けないのだと軽蔑されるおそれがあると思い、辛うじて席に止った。答案を書いていると、ふっと鎰《かぎ》屋のお駒や紀代子や喫茶店の女の顔が思い掛けず甘い気持で頭に泛んだ。それほど講堂のなかの空気が息苦しく思われたのだ。一刻もじっとしていられない気持で、豹一はまるで逃馬のように卒然となぐり書きして、あっという間に答案を提出してしまった。むろん、読み返しもしなかった。たとえ二人のうち一人採用されるにしても、自分は不採用に決っていると、新聞記者になることにすっかり見切りをつけてしまった。ところが、そんな風に早く提出してしまったことが、豹一に幸したのだった。 実は全部提出するまで根気よく待っていた壇上の試験係には随分気の毒な話だが、編輯長の方針では、採点する答案は最初に提出した十人だけと、あらかじめ決っているのである。そのあとから提出した答案は一束に没籠にほうり込まれてしまったのだ。どんなに良く出来た答案でも、永い時間掛って書くようなのは、新聞記者としては失格だという編輯長の意見だった。新聞記者の第一条件は、文章が早く書けるということ、しんねりむっつり文章に凝るような者やスロモーは駄目だというわけだった。 ところで、その十人の答案は大半出来がわるかった。編輯長は答案を調べながら屡※[#二の字点、1-2-22]吹きだした。編輯次長はわざわざ編輯長の部屋へ呼ばれた。「傑作があるぜ、これどないや。Lumpen(ルンペン)を合金ペンと訳しとるねんや」「だいぶ考えよったですな」

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